大麻って聞いて、あなたは何を思う?

この「農作物」を次代に継承するために

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2019.11.04
written by Cannabis Museum

大麻博物館は、栃木県那須にある私設の小さな博物館です。2001年の開館以来、「ヘンプの産業利用」「マリファナ合法化」「医療用大麻」といった近年注目を集めるテーマではなく、古くから日本人の営みを支え続けてきた「農作物」という切り口で、様々な情報収集と発信しています。

各地で麻糸を績むワークショップ(受講者は、のべ1000人を越えました!)や講演を開催する他、文化財の修復なども行なってきました。それらの活動の中で、確信を持つようになったことがあります。それは、大仰に聞こえるかもしれませんが、日本人とは「米と大麻」をつくってきた民族であるということです。

日本人は縄文時代からほんの60〜70年前まで、生活のあらゆる場面で大麻を利用してきました。例えば、化学繊維や安価な綿が普及する以前、植物の繊維から衣服をつくっていましたが、その代表的な植物は大麻です。江戸中期くらいまで、庶民の服といえば大麻でした。例えば、伝統的な和柄としてポピュラーな麻の葉模様は、大麻をモチーフにしています。この柄は、赤ちゃんの産着などに使われることも多いのですが、これは成長が早く、真っ直ぐに伸びるという大麻の特性に由来しており、子供にすくすくと健康に育って欲しいという願いが込められています。

人名に「麻」という文字を用いるのも同じ理由です。他にも、丈夫な魚網や釣り糸、畳表の経糸(たていと)、蚊帳、下駄の芯縄、食用や漢方薬としてなど、その例を挙げるとキリがないほどです。

また大麻は、日本人のアイデンティティーと深いつながりを持つ植物です。神道において、非常に重要な素材とされ、年間800万体以上配布される伊勢神宮の神札は、神宮大麻と呼ばれます。天皇陛下が即位される際には、麁服(あらたえ)と呼ばれる大麻の衣が献上され、神社でガランガランと鈴を鳴らす縄(鈴緒)や巫女の髪を結ぶ紐なども大麻です。ご存知ない方も多いのですが、国技である大相撲はご神事ですので、横綱の化粧回しは大麻でできています。神道が大麻をこれほどまでに重用するのは、大麻の繊維が持つ白々とした輝きが、神道が理想とする「清浄」のイメージそのものであることが理由です。大麻が、いかに日本人と密接な関係にあったかについては、拙著『大麻という農作物』に詳しく記しましたので、ご一読いただけると幸いです。

栃木の大麻畑を視察される昭和天皇
神宮大麻

では、これほど身近にあった農作物が、なぜ「違法な薬物」というイメージ一辺倒になってしまったのでしょうか。農作物としての需要の低下、大麻取締法の運用の問題など様々な理由が挙げられますが、中でも大きいのは、言葉の定義の問題です。

かつての大麻の衣服

広辞苑(第5版)によると、大麻は「麻の別称」と定義されています。かつての日本において、「麻」という言葉は、直接「大麻」のことを指しており、古い文献の中で「麻」と書かれているものは「大麻」を意味します。一方、昭和37年に制定された家庭用品品質表示法という法律では、「麻」という表示は外来種のリネン(亜麻)とラミー(苧麻)に限ると定義されており、大麻は「指定外繊維(大麻)」などと表記されます。夏のスーツとしてイメージされる麻は、リネンもしくはラミーでつくられたものであり、大麻は現在、「麻」と表記すると法律違反となります。

過去と現在で「麻」の定義が変わっているため、かつて日本人と密接な関係にあった農作物を指したい場合、「大麻」と呼ばざるを得ません。そして、マリファナ喫煙の流行を経て、「大麻」という言葉を口に出しづらい空気が醸成されました。余談ですが、「マリファナ合法化」「医療用大麻」などで盛り上がるアメリカでも、かつて同様に「カナビス」「ヘンプ」「マリファナ」と言葉の定義に関する問題があったのは興味深い事実です。

現在、この農作物は、存続の危機といって差し支えない状況にまで追い込まれています。この農作物が次代に継承されるために大切なことは、当然ですが「正確な情報」をより多くの方々に知って頂くことです。しかしこのテーマは、どうも陰謀論などと相性がいいのか、ネットなどには真偽の疑わしい情報やデマなどが散見されます。これでは、社会からの信頼を獲得するのは難しいと考えます。また、日本には大麻取締法という法律が存在しています。この事実に正面から向かい合うことは不可欠です。

大麻をモチーフにした学校の校章

2016年、自治体と連携しながら、農作物としての大麻を用い、地域おこしに取り組んでいた鳥取の大麻農家が、マリファナ所持で逮捕されました。事件の余波は大きく、大麻栽培に関する行政の要求は以前にも増して厳格化され、鹿沼市の高校で2014年から開催されていた栽培加工体験は中止となりました。残念でなりません。

「ヘンプの産業利用」「マリファナ合法化」「医療用大麻」といった海外の動きには、私たちなりに関心を持ち、情報をフォローしているつもりですが、日本には日本の事情や歴史があります。グローバルな流れだからといって、日本も無条件で乗るべきだというような乱暴な意見には、違和感を覚えます。ただし、国(というか厚生労働省)が長期間に渡って、この植物の歴史や有用性、可能性などを考慮することなく、一括りに「ダメ、ゼッタイ」と主張し続け、正確な情報を提供していないことも確かです。このテーマは、正確な情報を広く周知した上
で、国民的な議論をすべきテーマです。そして、その議論のベースには、日本人の衣食住やアイデンティティーを支えてきた「農作物」という視点があるべきだと、私は考えます。


この記事は HEMP Magazines Japan のオリジナルコンテンツです。

この記事を書いた人

大麻博物館

日本人の衣食住を支えてきた「農作物としての大麻」に関する私設の小さな博物館です。2001年、栃木那須に開館。水・木定休。著作に「大麻という農作物」「麻の葉模様」。日本民俗学会員。


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